円誕生の謎



古銭MLで交わされた「円誕生の謎」の会話集を編集しました。(編集:Tさん)
【Iさん】題名:[kosen 00070] 円、元、ウォン ****************************

練馬雑銭の会のホームページの「初心者のためのコイン基礎知識」での
暴々鶏様記事の「中国のお金の数え方」に元と円の関係について

> 最後に、改めて気づいてみると、現在の貨幣単位も日本は「円」、中
>国は「元」であり、読み方はいずれも「YEN」と同じです。日中二千年の
>歴史を通じ、貨幣の考え方は誠に「縁(えん)」の深い仲であったという
>わけです。

とありました。これについて、中国、韓国の留学生との話などから次の
ような私見を以前より持っています。詳しい方おられましたら、お教え
願います。

 日本の「円」は「圓」の略字です。中国の「元」も「圓」の略字or同
義異字と中国人留学生に聞いたことがあり、また、私は台湾の硬貨で、
一圓を持っています。従って、中国も日本も同じ名称の通貨単位を使っ
ているが、用いている文字が違うだけと言うところではないでしょうか。
また、韓国のウォンも漢字で書くと「圓」と書くと韓国からの留学生か
ら聞いたことがあります。これについては『韓国のウォンの漢字表記は
「圜」であって「圓」ではない』というのをどこかで読んだ記憶があり
ますが、中国の漢字字典を見ると「圜は圓と同じ」とありますので、韓
国のウォンも「圜」であっても、「圓」と同じことかもしれません。
 まとめますと、極東の中国、台湾、韓国、日本(北朝鮮も含む?)は
全て貨幣単位として旧表記を含めて「圓」と書く通貨単位を使っていて、
各国の言葉の違いで発音が違っているだけと言うことではないでしょう
か。

【Nさん】題名:[kosen 00072] Re: 円、元、ウォン *******************

> まとめますと、極東の中国、台湾、韓国、日本(北朝鮮も含む?)は
>全て貨幣単位として旧表記を含めて「圓」と書く通貨単位を使っていて、
>各国の言葉の違いで発音が違っているだけと言うことではないでしょう
>か。

Iさんのご指摘にはなるほどと思うところがありますし、Iさんの
お考えは的を得ているのではないでしょうか。
練馬雑銭の会の担当の方が詳しい見解を述べられるのでしょうが、
自分でも調べた範囲でコメントさせていただきます。

現在の貨幣制度のルーツとなる法律として、明治4(1871)年5月10日
に「新貨条例」が公布されたとのことです。ご存知の方もいらっしゃるかと
思いますが、その概要は、次のとおりです。

(1)新貨幣の単位は圓とし、圓以下の小数については銭(100分の1)、
  厘(銭の10分の1)を用い、計算は10進法によること。
(2)これまで通用していた貨幣一両は新貨幣一圓と等価とする。
(3)金貨を本位貨幣とし、純金1.5gを一圓と定める。
(4)貿易通貨として一圓銀貨を鋳造する。この銀貨は開港場以外では
  公納その他一般に通用できない。(貿易関係の決済または外人の
  納税といった限定的な通用が認められ、国内では公的な通用力は
  ない、との意味です)
(5)貿易銀100圓につき本位金貨101圓を交換比率とする。
(6)補助貨幣として50銭以下の銀貨・銅貨を造る。
(出展:「貨幣」 瀧澤武雄・西脇 康編、東京堂出版)

この「新貨条例」は、明治政府が議論を重ねた末の結果なのでしょう
が、この「新貨条例」制定前の明治2年(1869)3月、当時、会計官
副知事という役職にあった大隈重信は、新貨幣制度について次の
建言書を提出したとのことです。

「各国通用ノ制ニ則リ 百銭ヲ以テ一元ト定メ 以下十分ノ一ヲ十銭
 トシ 銭ノ十分ノ一ヲ一厘ト為セハ 計算ニ於テ従前ノ煩雑ナク 」

即ち、通貨の単位を「元」とし、計算方法として「10進法」を建言して
います。しかし、この4ヵ月後に加納夏雄により作成された見本貨で
は「一圓」となっていたとのことです。
この間にどのようなプロセスで通貨単位が「圓」になったのかは、明ら
かになっていないようです。(本当はここが一番知りたいのですが・・)
(出展:「新訂 貨幣手帳」 株式会社ボナンザ)

ここで注目されることは、政府の要職にあった大隈重信により、「元」
の採用が提言されていることだと思います。
当時のアジア地域では「銀本位制」が主流であり、明治政府も当初は
「銀本位制」の採用を検討していたようです。東洋市場では銀品位10
00分の900、直径38.1ミリ、重量26.957gの「洋銀」(中国の別称
では「洋圓」といったそうです)が流通しており、明治政府としては国際
的にも通用する通貨を世に送り出したい、といった強い意思があり、
そのため、日本の「一圓銀貨」はこの規格になっているのだと思います。

このような時代背景や貨幣制度のプロセス(全てが明らかにはなって
いませんが)などから推測すると、Iさんのご指摘に得心する次第
です。

最後に、前掲の「貨幣」に記載されている貨幣呼称に「圓」が採用された
仮説を記載します。

(1)新貨幣の形が円形に統一されたため
(2)洋銀の中国別称である「洋圓」を継承したため
(3)香港銀貨と同品位、同重量の銀貨を製造することとした関係から、
  香港銀貨の「壱圓」(洋圓一個の意味)にちなむ

【Iさん】題名:[kosen 00076] Re: 円、元、ウォン *******************

中国からの留学生と話していて感じたことを加えさせて頂きます。
 中国の通貨単位「元」はyuan(何も見ずに書いているので確かでない)
と表記されますが、聞いている(3人しか経験がありません)と「エン」
としか聞こえません。 また、中国の外貨表記は全て「日元=日本円」、
「美元=米ドル」の様にすべて「国名略文字+元」で表しています。そ
れでと言うわけではないでしょうが、私が話をしたことのある留学生の
一人は貨幣の単位を全て「エン」というので、注意しないと米ドルのこ
とか、日本円のことか、はたまた中国の元のことか全く無頓着に話しま
すので、確かめながら話を聞かないと話がトンチンカンになってしまい
ます。韓国の「ウォン」とカタカナで各通貨単位は韓国の方の発音では
「ウォン」と「エン」の間のような「ウォン」のようなどちらともカタ
カナで書けない発音でした。(と書くと中国の「エン」も日本の「エン」
とは僅かに違うかな??)
 蛇足になりましたが、ともに「エン」というお話でした。

【Tさん】題名:[kosen 00077] 円、元、ウォンの続きPart2 ***********

> まとめますと、極東の中国、台湾、韓国、日本(北朝鮮も含む?)は
>全て貨幣単位として旧表記を含めて「圓」と書く通貨単位を使っていて、
>各国の言葉の違いで発音が違っているだけと言うことではないでしょう
>か。

私もNさん同様、Iさんのお考えは的を得ていると思います。
私も世界のコインの視点で分かった範囲でコメントさせていただきます。
円の誕生は私の収集クラウンシルバー(主に貿易銀)による処が多いので、参考にし
ていただけたら幸いです。

中国は大英帝国との間に1840年に勃発したアヘン戦争に敗れ、1852年に貿易
港を開設し外国に門戸を開きました。
巨大市場中国の門戸開放は諸外国の競いあう処となり、銀に対する異常なまでの崇拝
をもっていた中国との交易の為、取引上各国が貿易銀を鋳造する必要性に迫られまし
た。
当時の極東ではスペインのカルロスドルが使用されていましたが、その後中国に大量
輸入されたメキシコドル(419グレイン/銀903)が取ってかわり、諸外国の自
国貿易銀流通の成功の鍵は、もっぱらこのメキシコドルの駆逐にありました。
まずイギリスが、極東における自国の植民地からスペイン及びメキシコドルを一掃さ
せ、自国の貿易銀を流通させようと試みますが、銀の実質価値に基く極東の商習慣を
変えることが出来ず挫折してます。

英領香港貿易銀 (419グレイン/銀900)
メキシコドルより品位が落ちる。

イギリスの失敗から他の諸国は貿易銀の量目を増やして鋳造しましたが、銀の実質量
が増えたことによってその多くが備蔵及び鋳潰されてしまいました。
(「悪貨は良貨を駆逐する。」の定説)

アメリカ貿易銀 (420グレイン/銀900)
日本の貿易銀 (420グレイン/銀900)
仏領印度支那貿易銀(420グレイン/銀900)

19世紀末になると中国自身もメキシコドルの駆逐に動きだし、実に多くの銀貨が鋳
造されています。

当時の中国には以下のような貨幣単位があります。

@【 Dollar Amounts 】
1Dollar= Yuan(元or員、圓or圜)
10Cent = Chiao(角)/ Hao (亳)
1Cent = Fen (分)/Hsien(仙)

A【 Tael Amounts 】
1Tael = Liang (両)
1Mace = Ch'ien(銭)
1Candereen = Fen (分)

B【 Copper and Cash Coin Amounts 】
Mei(枚)
Wen(文)

ここで注目したいのは、元or員、圓or圜です。(すべてYuanと読みます)
円は中国の紙幣の単位という記述もあったり、ワールドコインカタログには
【 Dollar Amounts 】とありますので、ドルに対する中国の貨幣単位として
誕生したかもしれませんが、尚不確定です。

Iさんのおっしゃるように圓には圓い(まるい)、圜には圜い(まるい)や圜る(
めぐる)という意味があります。
通貨は丸くてめぐるもの、圓or圜がそのままの意味で貨幣単位となった可能性が高
いと思われます。
でもなぜ、日本も円なのか?

明治4年に「新貨条例」が布告され、明治政府は当時世界の主流に変りつつあった金
を本位貨幣とする金本位制をとりました。
しかし既に述べたように、極東ではすべての国が銀本位制をとっていた為、日本とし
ても無視出来ませんでした。
したがって金本位制をとりながら金と銀の両位制がなされていたようです。

近代国家を目指す日本にとっては、巨大な極東市場の覇権はなんとしても取りたかっ
たはずで、新通貨の単位である円は巨大市場(とりわけ中国)をにらんでの採用だっ
たのではないでしょうか?
イギリス極東貿易銀が自国の通貨単位(クラウン)を用いずに圓を採用し、わざわざ
漢字表記で「壱圓」と記していたことからも、諸外国が極東貿易での覇権争いにかな
りの入れ込みようだったことが分かります。
(少しでもメキシコドルより流通しやすいようにと考えたのでしょう。)
新貨幣制度を前にして、日本でも後発がゆえのあせりもあり、当時の中国の対ドル単
位であった圓をそのまま採用したと考えてもなんら不思議ではないように思われます。

【Iさん】題名 :[kosen 00078] 圓 **********************************

>> まとめますと、極東の中国、台湾、韓国、日本(北朝鮮も含む?)は
>>全て貨幣単位として旧表記を含めて「圓」と書く通貨単位を使っていて、
>>各国の言葉の違いで発音が違っているだけと言うことではないでしょう
>>か。

 北朝鮮については福岡古泉会の堀本正さんのホームページ
http://www.bekkoame.ne.jp/~horimoto/DPRK/abstract.html
からたどれるページに「1圓券」、「1圓硬貨」の表記があり、最初の
メールの「北朝鮮も含む?」の?マークは取ってもよさそうです。そう
すると、

 極東の国、中国、台湾、韓国、北朝鮮、日本は全て貨幣単位として旧
表記を含めて「圓」と書く通貨単位を使っていて、各国の言葉の違いで
発音が違っているだけ。

と断定的に書いても間違いではないようです。こう書けるのはなんだか
うれしさが込み上げてきます。手持ちの文献で積ん読くになっていて読
んでないのがありますので(こんな状態で聞いてすみません)、新たな
根拠?が見つかったら書かせて頂きます。

【Iさん】題名:[kosen 00112] 円 その後 ***************************

 昨日、県立図書館に行って来て、
「円」について、「円の誕生」三上隆三著、東洋経済新報社刊と言う
のが目に留まり、借りてきました。「円」が使われるようになった経緯
が不明なのの大きな原因の一つは、明治5年と6年の2度の火災で公式
の関係書類が全て焼けてしまったためだそうです。その本では、「円の
由来」と言う章を設けて由来について書いていました。まだ、その章だ
けを流し読みした段階ですが、江戸時代すでに「両」の別称として「円」
が結構使われていた(手紙などの書き物として残っている)というのが
意外でした。
 Tさんが書かれた

>イギリス極東貿易銀が自国の通貨単位(クラウン)を用いずに圓を採用し、わざわ
>ざ漢字表記で「壱圓」と記していたことからも、諸外国が極東貿易での覇権争いに
>かなりの入れ込みようだったことが分かります。
>(少しでもメキシコドルより流通しやすいようにと考えたのでしょう。)
>新貨幣制度を前にして、日本でも後発がゆえのあせりもあり、当時の中国の対ドル
>単位であった圓をそのまま採用したと考えてもなんら不思議ではないように思われ
>ます。

と言うことについても、書かれており、更に、香港の壱圓は、明治政府
が「円」と決めた時点では発行を止めていて、同じものを使ったと言っ
て文句を言われなくなっていたとのことも付け加えてありました。また、
「円」の英語表記に日本語の発音を示す"EN"、"WEN"を使わずに"YEN"と
したのも香港の壱圓を意識して中国南部の発音を採用した結果だと言う
ことでした。

【Iさん】題名:: [kosen 00259] Re: 円誕生」会話集******************

韓国のウォンの漢字表記について、現時点でそうなっているかどうか不
明ですが、ウォンの制定時には「圜」が漢字表記だったとありました。
(「円の誕生」三上隆三著、東洋経済新報社刊)「圜」は「圓」の同義
異字の文字だそうですので、どちらにしても、メールで書かれたことに
訂正はいらないようです。


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